日本大学 研究発表
日本大学 松戸歯学部 矯正学講座の研究発表をご紹介します。
デーモンシステムの矯正治療中の歯周病原性細菌に対する効果
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日本大学 松戸歯学部 |
近年、成人の矯正治療に対する関心、ニーズが高まっており、成人矯正の治療数は増加しています。
その一方で、歯周病に罹患している患者に対して矯正治療を行うと歯周病を増悪する場合があります。
この原因は矯正力による炎症性物質および歯周病原性細菌数の増加や歯科矯正装置装着による不潔域の増加などが考えられます。
これに対し、「デーモンシステム」は、ハイテクブラケットと最先端ワイヤーにより、最適な弱い力が使えるように設計されており、また清掃性の良い清潔な矯正歯科器具であることから歯周組織によいとされています。
そこで、矯正治療中の患者の歯肉溝より歯周病原因菌数を測定し、従来のブラケットと比較検討を行いました。
歯周病
歯周ポケット(歯と歯ぐきの間の溝)に棲息する歯周病原性細菌が、歯肉に炎症をひき起こし、さらに、歯を支えている歯槽骨(アゴの骨)を溶かしてしまう慢性の炎症性疾患です。歯周炎が存在する場合、矯正力を加えるとその症状を増悪させることがあります。
歯肉溝歯周病原性細菌滲出液
歯周病は、
Actinobacilus actinomycetemcomitans (A.a),
Porphyromonas gingivalis (P.g),
Prevotella intermedia(P.i),
Bacteroides forsythus (B.f),
treponema denticola (T.d) などの細菌が発症の原因、また症状の進行に強く関与していると言われています。
プロスタグランジン
プロスタグランジン(prostaglandin)は炎症時に放出される炎症関連メディエイターの1つで炎症性疼痛発生や骨吸収に深く関与します。歯肉溝浸出液は歯肉溝から分泌され、炎症時にその量は増加します。
資料および方法
対象は、日本大学松戸歯学部附属歯科病院矯正科にて矯正治療を受けた成人患者6名です。
デーモンシステムとスタンダードエッジワイズ法によって、各3名ずつ、抜歯をせずに矯正治療を行った症例について次の検討を行いました。
<<検討項目>>
(1) 歯肉溝内のP. intermedia (歯周病原性細菌の1つ) の数
(2) 歯肉溝内のB. forsythus (歯周病原性細菌の1つ) の数
(3) 歯肉溝滲出液 gingival crevicular fluid (GCF)中のプロスタグランジン(prostaglandin) E (PGE)の産生量
【ブラケットの装着状態と歯周病原性細菌の検査】 | |||
【歯周病原性細菌 Prevotella intermedia(P.i) 数】 | |||
【歯周病原性細菌 Bacteroides forsythus (B.f) 数】 | |||
【プロスタグランジン(prostaglandin)E量】 | |||
結果・考察
すべて患者の歯周科初診時の細菌数は高値を示していたが、歯周治療終了後および矯正治療開始時には低い値を示していた。デーモンシステムによる患者のレべリング時、動的治療終了時のP. intermediaとB. forsythusの数は従来の装置で治療した患者より低い値を示した。矯正学的歯の移動に伴うGCF中のPGEの産生量もレべリング時、動的治療終了時において従来の装置に比べてデーモンシステムの方が低い値を示した。
結 論
デーモンシステムは従来の装置に比べ、矯正治療時の歯周組織への負荷は低いことが示唆された。